自民党憲法草案解説
今回の参議員選挙で政権与党が3分の2以上の議席を獲得すると、
自民党の憲法草案をベースに憲法改正に向けた議論が進められる
ことになります。
最後は国民投票が有るから大丈夫!と考えておられませんか?
多くの憲法学者が反対したにも関わらず、昨年強行採決された安保
法制を思い出して下さい。加えて、平成19年5月成立の国民投票法で国民投票前は、大学教授等の教員や公務員による意見表明が規制される為、
政権与党の都合のいい議論で押し切られる可能性が高いと言わざるを得
ません。
今の内に、我々国民が真剣に考え議論をしておく必要があるのです。
その為にも自民党の憲法草案を理解しておかなければいけないのですが、憲法の様な法律を全て読んで理解するのは大変です。
そこで、自民党の憲法草案を現在の憲法と比較して簡単に取り纏めてみ
ました。
是非、この機会に一度お目通しの上、
草案でも良いと言う方は政権与党の候補者を、
草案の内容には異論が有ると言う方は憲法改正に否定的な党の候補者を、
今回の参議員選挙で選択されるべきかと思います。
全体が把握しやすい様に、有名な憲法三原則をベースに現憲法と自民党の憲法草案を比較した図を作りました。
1.全体総括
近代立憲主義憲法は、国家権力を制限し人権を保障する法です。
つまり、法律を作るときや、それを運用するときに国家が守らなければ
ならないことを示し、国民が国家に遵守させる法です。時に国家は暴走
するという歴史的教訓から生まれた役割であり、日本国憲法もそのような
役割を担っています。
自民党憲法草案は、そうした従来の意味での憲法ではありません。
つまり、現行憲法では公務員のみが負っている憲法尊重義務を全国民
が負い(102条1項で「遵守」より重い義務と規定されています)、
「公益及び公の秩序」(12条後段、13条後段、21条2項等)による人権
制限があり、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚」
(12条後段)することが要求され、国民の義務が大幅に増え、
国家から国民への法に変容している(前文冒頭の主語が国家になって
いる)のです。
2.主な変更点
(1)国民の義務が増える
明確に増えた義務(3条2項、19条の2、92条2項、99条3項、102条1項)
のほかにも、国民に一定の態度を要求している部分が相当数あります。
(前文3段以下、9条の3、12条前段、12条後段、21条3項、24条1項、
24条2項、25条の2等)。
これらは全て、憲法尊重義務を負うことによって、国民が守らなければ
ならない事項になっているわけですから、法律により具体化されることで
明確に憲法上の義務となり得ます。義務は大日本帝国憲法では2個、現行
憲法では3個、草案では21個もあります。
(2)個人の尊重がなくなる
人権とは、生きること、幸福を追求すること、意見を言うこと、好きなことを
考えることなど、人に欠かせないあらゆる権利のことです。まとめて基本的
人権(現行97条)といったりします。
こうした全ての人権の根幹をなす「個人」の尊重(13条)が、「人」の尊重
に変わっています。これは全体主義方向への変化を目指したということで
す。
そもそも、憲法が力を発揮するのは、多数決原理では奪えない少数派の
人権を保護する局面です。そのため、個人主義を後退させ、和(草案前文)
を乱す個人を尊重しないことは、憲法の存在意義が骨抜きにしていると言
うことです。
(3)「公共の福祉」ではなくなる
従来、「公共の福祉」(12条後段、13条後段)による人権制約は、他の人権
に資する場合(人権の合計が大きくなる場合)にのみ認められるもので、
他の人権の集合とは異なる「公益」的な何かは存在しないと考えるのが
一般的でしたが、憲法草案では、誰の人権のためにもならないが公益に
はなるという場合を明確になったと言えます。
従って、全ての人権の尊重度が弱まります。具体的にどうなり得るのかは
各条文を見なければいけませんが、特に 言論や芸術などの表現の自由
に対する規制については、「公共の福祉」のなかった21条に「公益及
び公の秩序」を入れていますので特に大きな制約が掛かってくることに
なります。